学会員への推奨

日本プライマリ・ケア連合学会は,不公正な健康格差の是正に向けて,会員一人一人が次のように行動することを推奨します.

1) 予防活動・診療について

  • 生涯(ライフコース)にわたる,健康を脅かす上流因子に目を向ける
  • 本人や家族,周囲の方々や組織と認識を共有し,健康に影響する社会環境を整えるように,地域の実情や患者の価値観に沿って,関係する人や組織に働きかける
  • さまざまな社会背景をもった人が受診しやすく,適切にケアされる診療体制を構築する
  • 患者や家族が健康のみならず生活に関する困りごとを相談しやすい環境をつくる
  • 社会的な困難を抱える人に対して医療者に生じる陰性感情への対応法を学び,実践する

2) 教育について

  • 学生実習や指導医による専攻医への教育,多職種カンファレンスなどさまざまな教育機会において,健康格差の存在および人々の社会背景に目を向けることの重要さを,教育者と学習者が共に学び合う
  • 日々の診療の中で,患者の健康の社会的決定要因を明らかにし,全人的に対応するための具体的な態度とスキルを教育する
  • 社会的な困難を抱える人に対して,学習者が陰性感情を持ちやすいことを認識し,それに適切に対応することの重要さを学ぶ機会を提供する
  • 困窮している人に役立つ医療制度や社会資源を把握し,学習者に紹介する

3) 研究について

  • 日常診療において,患者の健康・診療情報に加え,社会背景も記録し,研究に活用できる形で蓄積する
  • 地域住民,行政担当者および多様な分野の研究者と協力して,健康格差の実態把握や効果的な対応法に関するエビデンスづくりに参画する
  • 医療機関をはじめとしたプライマリ・ケアの現場を,SDHへの対応法の発案とその効果実証のフィールドとして積極的に活用し,現場から新たなエビデンスを生み出していく

4) パートナーシップについて

  • 予防・診療・教育・研究・アドボカシー・制度改革のすべての面において,患者・家族および関係者(専門職,地域住民,支援ネットワーク,NPO,行政,政策立案者,医療者教育機関,職能団体,大学,マスメディア,企業等) とパートナーシップを構築する
  • 医療機関での診療にとどまらず,自らの専門性を活かして,地域でのまちづくり・まちおこしや,自治体や国における政策づくりやその改革等,SDHに関する様々な活動に貢献する
  • 貧困や孤独といった社会背景が健康を阻害し,また治療上の困難に陥っていると考えられる人に対しては,社会的処方(SDHを踏まえた多職種連携・分野を超えた組織間連携)の取り組みにより対応する

5) アドボカシーについて

  • 地域や集団の抱える健康課題を把握できる仕組みを作り,地域の人々や組織と共に問題解決に取り組む
  • さまざまな組織と連携して不公正な健康格差の是正に向けて地域や社会を変える活動を展開する
    ―診療・教育・研究活動を通じて見出した健康格差の状況を積極的に記述して国内外に向けて発信する
    ―健康格差について学会やその他の機関と連携して政策提言をする