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セミナーリポート

第8回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会 2017/5/13~14 (高松)

学術大会に参加して 宮澤麻子 ひたち太田家庭医療診療所


 高松での学会に参加してきました。このリポートでは講演やワークショップ以外の会場の雰囲気などをお伝えします。今回はプライマリ・ケア連合学会学術集会が初めて四国で行われるとのことで、香川だけでなく四国四県で協力して運営されていました。地理的な不利もありながら参加者が約4500人もいたそうです。
 JRホテルクレメントの高級感と対照的に、サンポート高松やシンボルタワーは庶民的な雰囲気で、カフェやラウンジを一般の方が利用している中で移動するという、住民の皆さんの日常の週末に紛れ込んだような不思議な感覚がありました。何回か迷ってしまいましたがそのたびに親切な会場スタッフの方に助けていただきました。
 うどん屋台コーナーはさぬき麺業さんで、初日、2日目とも1000食を用意したそうですが、初日は15:30までの予定に対して14時頃でも既に売り切れ終了していました。2日目の午前にリベンジして長い行列に並び、海の見えるデッキで冷たいぶっかけうどんを気持ち良くいただきました。盛況だったキャリアカフェの奥にあったドリンクコーナーには和三盆やオリーブチョコも置いてあり、さりげなく四国らしいおもてなしがみられました。
 コンサートのような斬新な大会長講演に始まり、新しい出会いや懐かしい仲間との再会、発表やワークショップの達成感などを通じて「元気をもらえた学会」という言葉が多くの人から聞かれた学術集会でした。

招待講演
 1)総合診療 日本の卒前教育における重要な役割 2)僻地総合診療への医学部卒業後の進路の創出
 村井三哉 東湖会 北浦診療所/鉾田病院


 最近、個人的な理由でオーストラリアが好きになり、豪州のGPはどう発展してきたのだろうかという興味から参加。1題目はP.Worley教授。母の看取りと妻の出産がまさにプライマリ・ケアの中で行われたことを紹介。「より多くのGPをつくるための教育をするのが21世紀の医学校の使命である。それはコストではなく、コミュニテイーへの投資である」と目からウロコの指摘があった。豪州での取り組みは、臓器別及びGP教育に共通の短期実習の欠点が解消される長期地域実習に学生をおいたこと。これにより実習が見学型からチームに組み込まれるスタッフ型になり、医学生は基本的臨床能力が上がり、満足度も上がり、指導医の負担も減ることが示された。日本も卒前教育の要となる総合診療に大きく舵を切り始めているが、長期実習の実現化を目指して議論を深める絶好の機会。2題目はL.Walters教授。電話、IT,ビデオなどを駆使して卒後の僻地医療をどのように行うのか、GPのアイデンテイテイーを卒後にどう構築していくかをテーマとしていました。豪州は広大であり、都市を一歩離れればあっという間に僻地となり、医療へのアクセスが悪化し、人々の健康が低下する。そんな現実のなかで僻地の医療ニーズは何かをとらえ、それに必要な研修を提供するrural generalismの確立が重要。具体的には4年間(1-2-1年)の重要な分野のトレーニングを行う。政府の役割(政策や財政支援)、個人の努力(学生や医師を指導)だけでなく、学術団体として組織的なとりくみ(継続的に総合診療を提供・孤立させない支援、アカデミズム、ロールモデルの紹介、国際的な連携)が重要である。
 

学会本部企画シンポジウム1 プライマリ・ケアにおける人工知能の可能性 片桐健太 貴船薬局グループ つぼ川薬局


 人工知能(AI)と聞くとパッ!と思い浮かぶのはなんだろうか。恐らく多くの方がpepperのような人型を想像されるのではないだろうか。本シンポジウムでは、”病歴聴取などを行う問診票をAIに置き換える自動問診システム”と”診断困難時の診断支援システム”の2例が紹介された。
 1例目の自動問診システム(問診ナビ®)は、症状・その期間・増悪因子などを選択していき、最終的に文章にして”紹介状”のようなものが出来上がる。ある程度定型化できる質問までは自動化できるため、最終的な診断の前までは医師でなくても行う事ができる。将来的には、救急搬送時や薬局でのトリアージの場面での活用が期待されている。
 2例目の”診断支援システム”では、様々な場面に於いてAIが今後活躍できる未来像が紹介されたが、知識量の多いAIと臨床推論の得意な人間の協同によって、より良い医療が提供できると締めくくった。
 以上に共通する点として、『機械だけではある程度のところまでしかいけない。100%代替をするのは難しい。人でしか判断がつかないような場面や、経験から選択する場面などでは最終的に人が介入する』という事が言える。
 高度な機械と共存することで、人が今以上に人でしかできないことで活躍できる未来がすぐそこまで来ている。

教育講演5 ワクチンupdate 長谷川陽一 三豊総合病院


 ワクチンについて勉強しよ〜という単純な思いで参加しました。トップバッターの中山久仁子先生は臨床医の立場から、「(日常臨床で注意が必要な)キャッチアップ」についてのレクチャーをして頂きました。キャッチアップというと、小さい頃にワクチンを打てていなかった子供に足りないワクチンを打つというイメージですが、定期接種に追加されたものや、海外転勤などの環境の変化に伴い必要なワクチンについても考える必要があると学びました。2人目の武内治郎先生(京都大学)は公衆衛生の立場からの講演でした。基本再生産数(R0)とは1人の感染者が感受性のある人口集団に持ち込まれた時に、その1人が平均して何人に直接感染するかを示した値のことです。これは感染症によって異なりますが、感染予防のために、キャッチアップ接種や複数回接種で集団免疫に必要な水準に到達させることが重要と学びました。最後の講演者は神戸大学の岩田健太郎先生で、ワクチン接種におけるコミュニケーションやメディア等について熱く語っていただきました。全体質疑応答のワクチンアンチ論者のお母さんとのコミュニケーションはとても参考になりました。「本当に絶対にワクチンはダメ!」という確固たる理論がある人は珍しく、印象として10人中1人ぐらいだそうです。「本当にワクチン効果あるのですか」と聞いてくる人は丁寧な説明で分かってくれる。ワクチン未接種の人が仮に少数残っても他の人達が皆ワクチンを打てば集団免疫により子供を守れる。また、絶対に打たないと決めている人を敵対視してしまうのではなく、子供を守りたいという気持ちは一緒なのだと相手と共通の理解基盤を見出すことで先が開けるのかもしれません。それが我々家庭医の強みかもしれないという言葉で幕を閉じ、勇気づけられた講演でした。

学会ジョイントプログラム1 高齢者の自動車運転 宮原圭佑 津軽保健生活協同組合 健生病院


 昨今、高齢者による自動車事故が全国的に問題になっています。2017年3月の道路交通法改正により、交通違反の有無に関わらず、講習予備検査で認知症が疑われた場合、医師の診察か義務化されました。今回の法改正を踏まえ、プライマリ・ケア医が認知症の診断に関わる機会が増え、これまで以上に専門医との連携が重要になると予想されます。本講演では「家庭医療学的」に把握するポイントについて、精神科専門医からのアドバイス・提言もありました。ドライバー自身、そして歩行者の安全を守る意味でも、医療者がこの判断を適切に行うことは重要であると改めて実感しました。一方、運転免許取り消しのために医療機関へのアクセスが不便になったり、仕事に支障をきたしたり、家族内での役割が失われたりすることで、その方の心身の健康に大きな影響を与えることになるリスクもあります。免許停止となったのちの公共交通機関のサービスなどの充実も重要です。我々医療者も安易な認知症診断を行うことなく、プライマリ・ケア医として地域住民の健康を守るために、十分な知識と専門医との連携が必要であると感じました。さらに、地域を診るという視点から、今後浮かび上がってくるであろう様々な問題について声を上げ、その問題を多くの医師にそして行政にも提言できるようになることも必要と感じました。

シンポジウム1 不適切な多剤処方・ポリファーマシーは「薬」の罪か? 岡村俊子 岡村薬局


 「答えは否である。」 日本の高齢者は複数の病態と複数の疾患を持っており、エビデンスに基づいた治療ガイドラインに沿った治療を重ねていると自然にポリファーマシーにたどり着きます。その結果、薬の副作用や副次的効果を治療するために新たな処方を繰り返されて薬の数がふえてしまう「処方カスケード」がおこる場合があります。
 予防可能な副作用を減らして過不足ない医療を施すためには
 ・多剤処方への知識習得
 ・Do処方の見直し
 ・高齢者の変調の原因は薬剤性ではないか疑ってみる
 ・医師―薬剤師、病診―診診等の多職種間のコミュニケーション
 等が必要であると徳田先生は話されました。また、宮田先生は患者の治療への過度な期待もポリファーマシーの要因の一つなので、治療ゴールを明確にし患者へのリスクと利益を評価したうえで「患者と医療者が合意」し、共通のプロセスを踏むこと、患者の熟考への支援を継続することが重要であるということを話されました。
 我々薬剤師の役割として期待されることは、
 ・薬の重複・禁忌の発見
 ・絶対リスクのエビデンスのある副作用・相互作用の発見と医師へのフィードバック
 ・薬物動態からの処方カスケードへのフォロー
 ・正式な診断名と検査値の把握
 であるということを再認識しました。そして残薬発生の要因の一つとして「医師の処方意図の通りに服薬されていない」という事実があります。薬局での患者との会話からその事実を知る機会は多いですが、なぜ服薬していないのかを確認し患者の服薬アドヒアランスを高めることも薬剤師の責務です。今回、ひまわり薬局が発表した「お薬手帳に貼った白紙のシールに患者本人に残薬数と薬品名を記入し受診・来局してもらう」という「可視化」の取組は患者の自発的な服薬管理に繋げる成功事例の一つです。「今、行っている調剤は患者中心のポリファーマシーになっているか?」今回のテーマは今後の日常業務を行ううえで非常に有意義な内容であったと思います。
  

シンポジウム6 病院総合医に求められる診療スキルとは? 宮原圭佑 津軽保健生活協同組合 健生病院


◯病院総合医が知っておきたい “超音波スキル上級編”
   松村 俊二先生 国家公務員共済組合連合会吉島病院 内科・総合診療科
 超音波検査は基本操作が簡便でベッドサイドでも可能、リアルタイム性に富む、非侵襲的で患者の負担も少ないなどそのスキルを習得できれば日常診療で非常に有用な検査です。デモンストレーションしながらの講演で、その高いスキルの一端を感じることができ、今後の診療でも繰り返し行いながらスキルを高めていきたいと感じました。
 
◯クリティカルな神経兆候を見逃さないため診療技術を磨く
   黒川 勝巳先生 広島市立広島市民病院 脳神経内科
 頭痛、めまい、しびれ、一過性意識消失などの神経症状を診る機会は多いです。そしてそれらの原因疾患はほとんどがクリティカルなものではありません。その中にあるクリティカルなものを見逃さないことが重要であり、そのために様々なRed Flagsを見逃さないことが必要です。神経学的所見も重要ですがそれ以上に詳細な病歴聴取が重要となることを改めて実感することができました。
 
◯ER室でのトリアージスキル
   上田剛士先生 洛和会丸太町病院 救急・総合診療科
 災害時のトリアージのみならず、すべての救急疾患にトリアージが適応可能であり、救急医のみならずにプライマリ・ケア医にとってもトリアージスキルは重要なスキルの一つです。バイタルサインによるEarly Warning Scoreを始めとした様々なトリアージ法が提示され、トリアージスキルの奥深さを実感しました。

シンポジウム14 看取りの文化を取り戻そう!(実行委員会企画) 岡村俊子 岡村薬局


 地域包括ケアシステムの最重要課題のひとつは「看取りの体制づくり」です。システムづくりとは「医療者・市民・行政」の意識改革でもあります。まず、横須賀市健康部地域医療推進課の川名氏から在宅療養・在宅看取りも選択可能な地域づくりへの取り組みについての話がありました。現在は「リビング・ウィル」の作成を検討中ということでした。
 次に登壇した特別養護老人ホームグリーンヒル泉・横浜の小山氏は、一般的には病院と在宅の中間施設と認識されがちな特養の存在意義についての話でした。看取りの数だけではなく、質の高い看取り介護を目指すことにより、地域資源としての役割を果たすことができるとのことです。介護負担の大きさなどさまざまな事情から、施設入所という選択をする入所者・家族もいるでしょう。そのような人たちにとって、介護施設が安楽な余生を過ごすための『終の棲家』となることを期待しています。
 また、徳成寺の大山住職には終活についてお話して頂きました。私たちは「死への嫌悪感と生への執着」のあまり、死と向き合うことを先送りにしがちです。多死社会を迎えた今、日本の看取り文化も時代に合わせて変化していくべきではないでしょうか。
 そして私が一番興味深かったのは、箕岡医院/東京大学外学院医学系研究科医療倫理学分野の箕岡氏が話された『看取りにおける倫理問題とアドバンスケアプランニングの重要性』でした。「看取る」という結論は同じでも
 ・医学的アセスメントは十分か?
 ・治療が無益かどうかは誰が決めるのか?
 ・誰が適切な代理判断者か?
 ・本人の意思は途中で変化ないのか?
 その確認次第では、その人の運命が変わってしまいます。適切な看取りを行うために「患者・家族」サイドでは事前指示の普及・「医療」サイドではDNAR指示を適切に作成すること・「介護」の領域では「看取りの意思確認書」を作成することが肝要です。そして本人にとって最善の選択を行うために「患者・家族・関係者」の対話の促進と助言システムの構築を担う人材育成が必要だと感じました。
 私は吹田市で市民・医療・介護関係者による地域活動「吹田在宅ケアネット」に所属していますが、今回のシンポジウムは薬剤師として今後活動していくうえで非常に有意義なものであったと思います。



 
 

シンポジウム15 主治医として継続的に舵取りを行う手段としての在宅医療 山下勇樹 FDMI奈良家庭医療レジデンシープログラム


 八藤医師の講演内容にもありましたが、往診依頼を受ける患者さんの中には、これまで自分自身が診療経験の乏しい、または全くない疾患を有する患者さんからの往診希望というのもあると思います。その時に、診療経験がないので難しいだろうと初めから断ってしまっては、きっとその他の医療機関からも同様に往診を断られていることが予想され、行き場を失ってしまう可能性のある患者さんがいらっしゃるということを改めて認識しました。そこで、家庭医療のcompetencyの一つであるcontinuityを発揮し、最初は経験が乏しくて困ることもあるかもしれないが、患者さんとの関わりを継続していく中で、医師自身も勉強し経験を積み重ねていき、その患者さんへある程度妥当な医療を提供出来るようになるのではないかと感じました。実際自分のプログラムの往診患者さんの中にALSを患っている方がいらっしゃるが、当初は指導医と一緒に同行する中で、家庭医がどのように神経難病の患者さんと在宅で向き合っていくのか想像も出来なかったが、往診を繰り返すうちに、自身の中での苦手意識や疾患から背きたい感情が徐々に薄れ、診療していく中で困難な事が生じる可能性は予想されるが、専門医やその他コメディカル、さらには行政とも連携しながら往診を継続していくということが、今回の講演内容と重なり、主治医として舵取りを行いながら、困難な疾患を抱える患者さんへの在宅医療を支えると意味を改めて実感しました。

一般演題(ポスター)42高齢者ケア① 押切康子 御代の台薬局品川二葉店


 高齢者ケアのポスターという分類は、在宅ではない取り組みでした。ここでもやはりポリファーマシーへの取り組みが挙げられていました。薬剤師として面白かったのは、P-250医療療養型病床における薬剤師による「EBMスタイル診療支援」の安全性の検討でした。丁寧に症例を集められていて減薬というより使用を考慮すべきという点が、当たり前ですが、難しいということです。しっかりとしたEBMにのっとり、かつ医師との協働において成り立たせていることがすごいな!羨ましいな!と思いました。他にも入院時に薬剤師が介入することや在宅診療において介入することの難しさの報告など、いろいろと取り組んでおられることが分かりました。かかりつけ医で物忘れ外来を受けられるなんて、専門医がいない僻地に住む人や都会で他の方に知られたくない家族にとっては気心の知れた医師に診てもらうことがどれほど安心であるかと思いました。この学会では、多職種の在り方を医師も含めて一緒に学べることがいいなぁと思っています。

WS16 多職種で考える!患者さんに伝わる伝え方 天野雅之 南奈良総合医療センター総合内科


 医者と患者がより効果的なコミュニケーションを取れるよう、参加者の「伝えるスキル」のレベルアップを目指して計画されたこのワークショップ(以下WS)。立ち見の見学者もいるほど超満員のなか、WSは和やかな雰囲気でスタートしました。
 まず、「効果的なコミュニケーションは疾病体験に対する認識を変えることが出来る」ということが鮮やかなレクチャーでシェアされ、相手にどの情報をどのように伝えるかの大切さを学びました。次に、集団に対するコミュニケーションスキルの向上を目指して、「風邪に抗菌薬を使わない」ことを啓発するポスター作りのコンペティションが開催されました。どの作品もハイレベルで、審査員もうなる出来栄えでした。そして、個人に対するコミュニケーションスキルの向上を目指して、「Shared decision making」の手法が紹介されました。ロールプレイも準備されており、参加者全員が効果を実体験することができました。最期に、よりよく伝わる4つのTips「専門用語を避ける、メモを使う、希望・価値観を把握する、理解度を確認する」が紹介され、ワークショップがお開きとなりました。
 今回のWSを通じて、「目の前のイシューに対して正しい問いを立てる」、「どの情報が相手の心に響くか考えてから伝える」などのパールを得ることができました。また、WS全体に柴田先生のハツラツさや熱意が込められており、明るく楽しい雰囲気で学ぶことができました。
 

WS21 こんなに違う?結構似ている?オーストラリアと日本のへき地医療 村井三哉 東湖会 北浦診療所/鉾田病院


 前半は離島に勤務した若手医師が経験した産科救急のケースを紹介。本島から120km離れた、人口1300人の島。卒後3年目にして産科救急に遭遇する。27週の妊婦が腹痛と性器出血で来院。ほんの基礎的な研修をうけただけで、医師1人での出産、まして病的な対応ができるべくもない。内診すら自信がない。さてこの危機的状況をどう乗り切るか。参加者はそれを踏まえ、グループデイスカッション。「私が関わる産科医療」として参加者自身の研修直後の経験などを共有した。後半はDR. L. Walters が豪州のへき地医療の現状を報告。とにかくオーストラリアは広大で一部の都市を除けば、あっという間に千人~1、2万のへき地になってしまう。圧倒的に医療アクセスが悪い。ACRRM(Australian College of Rural and Remote Medicine=オーストラリア僻地医療学会) の取り組みを紹介。医学生を地域に組み込む。へき地医療に向かう医師のスキルをどうやってあげるか。地道な調査をもとに何を研修するか決める。GPの実践・教育には強靭性、そして勇気が必要と訴える。しみいる言葉であった。フロアーから活発な質疑応答(産科訴訟、ミスの予防またはカバー対策、地域住民との交流、医師の孤立化の問題など)があった。その後日本での総合診療医の診療範囲、つまり卒前卒後教育でどこまでできるべきか、教えるべきかなど話し合った。
 

FMIG mixer 2017:目指せ10%、日本版FMIG全員集合!TTPで教育パイプラインを構築しよう! 河村勇志 愛媛大学


 家庭医療・総合診療。私自身も昨今よく耳にしているワードで、医学生にもようやく浸透してきた分野だと思います。しかし、実際のところ日本では、大学卒業時に家庭医療の分野を志す学生の割合は約3%だそうです。米国でも10~20%で、最近は低下傾向にあると聞きました。数値で見るとまだまだこれからだということがよくわかります。この現状を改善するために、家庭医療(以下FM)の面白さを伝え、将来的にFMを担う人材を増やすことを目標として活動しているFamily Medicine Interest Group(FMIG)という学生サークルが米国にはあります。今回の企画では、オレゴン健康科学大学(以下OHSU)の学生がFMIGの活動を報告してくれました。FMに関するレクチャーやハンズオンwork shopなどその活動内容は多岐にわたります。特に印象深かったのが、参加する学生の層をFMの経験度合いでExploring, Considering, Committedの3段階に分け、活動内容をそれぞれ工夫していることです。FMに初めて接する人はパーティーなどを通して親しんでもらう、ある程度興味が出たらFMに関してのレクチャーを行う、最終的に実際に患者さんと接してもらうといったような具合です。活動内容はアイデア次第でいくらでもありそうです。大事なのは、参加者の層やニーズを如何に把握するかだと思いました。
 宮崎大学はOHSUと連携してFMIGの活動を展開しているようです。活気のある学生ばかりで今後の宮崎FMIGの活動が楽しみです。また、自分もFMの面白さを伝えられるようになりたいと思いました。

インタレストグループ「家業継承を考える」 長谷川陽一 三豊総合病院


 開業医の息子、娘、継承する側の父親たち40名弱が参加したこのグループでは、前半は静岡県山間部、埼玉県郊外で医院を継承した2名の中堅の先生からナマの声がギュッと詰まった実体験をお話いただきました。「糖尿病でピオグリタゾン処方して、浮腫が出てきたらフロセミドを出すなど、総合診療科のカンファレンスでこの処方は何なんだ…と、同僚と批判していた開業医の姿が自分の親と重なり、父に対する尊敬が崩れていったんです (TдT)」 そんな講師の言葉から会場内は何とも言えない雰囲気と笑いに包まれました。見渡すと周りに頷いている人も。臨床的にレベルが低いと感じることや、古くからいる医療スタッフが変化を嫌がることへの苛立ち、長年続いた施設の文化を変える悩み、利益を出すプレッシャーなどのnegativeな一面を抱える一方で、家業継承だからこそのcontinuity(継続性)という大きなメリットや、自分自身の成長や親子だからできる決断など知ることができました。後半はグループ毎に参加者自身の悩みを相談しあいました。家業継承に関するグループは自分自身経験なく、普段バラバラの地域にいるからこそ、デリケートなことも相談しやすいと感じました。「Facebookなどのグループで、それぞれが悩みを打ち明けたりする場はどうでしょう」という提案が生まれ、企画責任者の先生も「ぜひ!」と話をしていたので、今後何らかの形でグループができるかもしれません。最後に、全国の家業継承に悩む方々が出会い、不安を解消し前向きになる場を作って頂いた企画側の先生方に感謝申し上げます。


第12回若手医師のための家庭医療学冬期セミナー 2017/2/11~12 (東京)

WS7 エクストリーム4D~超困難事例を体感する~ 水本潤希 愛媛生協病院


 初期研修中に困難事例、複雑事例をたびたび経験し、他の病院ではどのように向き合っているのか知りたくて参加しました。超困難事例を「体感する」というコンセプトそのまま、医師の一人称視点で作成されたケース提示動画では、患者宅を訪れるシーンで、患者宅のにおいや、咳のしぶき、患者の戸惑い、怒りなど、まさに五感に訴える映画仕立てになっていて、このワークショップの自由度がエクストリームだなと感じました。ありとあらゆる問題を抱えている60代の男性がCOPD増悪で入院(のちに結核と判明)したが本人は強く家に帰りたがっている、という事例を基に、多職種で行う臨床倫理カンファレンスのロールプレイを行いました。大阪家庭医療センターでは月1回このカンファを行っているようで、実践から得られたポイントも教えていただきました。その後の議論は、事例の内容にとどまらず、カンファを行う意義や、忙しい各職種の方々に参加してもらう工夫など多岐にわたりました。カンファをしたからと言ってすぐ答えが出るわけではなく、いつだってもやもやして終わるものだけど、カンファを積み重ねることがスタッフの自己効力感と経験値の蓄積につながり、何かの拍子に一気に問題解決の方に進むことがある、という話が印象的でした。

WS9 源家族×家庭医×現家族 ~ライフサイクルを軸にした省察的実践〜 水本潤希 愛媛生協病院


 医師自身の家族に対する思い、考えを振り返って共有し、ライフサイクルについて学び省察することで、実際の診療に応用するだけでなく、自分のキャリアへの問題解決にも役立てようというWSです。まず自分の家族図とライフサイクル上の課題を書き出し、参加者同士で共有しました。人それぞれ、現在直面している家族の発達課題があるようです。課題とそれに伴う危機はある程度予測可能なステージがあり、これを念頭に置くことで患者背景の把握、健康問題解決の端緒となります。その後、講師の方々の実例をもとに、現家族(いま所属している家族)と源家族(生まれ育った家族)についてグループで議論しました。ライフサイクルとはライフステージでありライフコースである、確かに一つひとつ順番に達成していく課題もあるけれど、一人ひとりの人生は多種多様であり、自分らしいコースを描いて当たり前、類型化されたライフステージとその人特有のライフコースをうまく使い分けることが大切なのではないかという結論に至りました。今までの自分の人生や経験、他の人が味わってきた困難や喜び、そして今まで出会ってきた患者さんについて、みんなで考え意見を出し合い言語化していく。これこそがまさに、家庭医療を学ぶというダイナミズムなのですね。不特定の参加者の前で自己開示をしていただいた講師の方々に、深く感謝いたします。

WS17 乳児健診 水本潤希 愛媛生協病院


 妻君(小児科専攻医)曰く、地域の小児科医は病気を診るのではなく、子どもの健やかな成長を支援するのが仕事である。単純な私は、かっこいい、自分もそうなりたいとすぐ感化されてしまい、このWSを受講しました。事前アンケートによると、小児を診療する機会は多いけれど健診はほぼしていないという参加者が多いようです。日々の診療に健診の視点を導入することをテーマに、レクチャーやロールプレイが繰り広げられました。日々是健診、その肝は、毎回の診察前に母子手帳、成長曲線で情報を集め、年齢に合わせて「小さいものを指でつかんで食べていますか」といった発達に関する質問をすることです。もちろん、評価するだけでなくその後も重要。発達段階の1つが引っ掛かっただけで即異常としない、しかし気軽に「大丈夫ですよ」ともいわない、良いところを認めて伸ばし、養育環境の評価を行い、そして継続的なフォローと、保健師をはじめとする多職種連携を推進する。文章にすると大仰ですが、講師の丁寧な説明と人柄のおかげで、これなら何とかできそうだという気持ちになります。ロールプレイは、子どもがなかなかハイハイしないと不安を感じていて、友だちの子どもと比べてしまい焦っている親にどう対応するかというもので、親役の真に迫る演技に医師役はタジタジでした。全体を通じて、小児だからと無暗に構える必要はなく、大事な点は普段の診療と同じなのだなと得心したWSでした。

WS20 模擬外来 菅藤賢治(かんとうけんじ) 勤医協中央病院/GPMEC


 家庭医療専門医試験で行われるCSA(Clinical Skill Assessment)という形式のいわゆる「模擬面接」試験を真似たワークショップであった。本来であればこれから試験を受ける世代が参加するワークショップであるが、試験方法や評価方法について関心があったので参加させていただいた。
 専門医試験では6つの課題がでるが、今回のワークショップではそのうち「患者教育(行動変容)」「心理社会(Bad news telling)」「高齢者(CGA)」の3つを90分のワークショップの中で実際に体験することができた。数人の即席チームをつくり3ステーションを回る形であったので実際に私が医師役で面接をしたのは1か所(患者教育)だけになった。8分間の模擬面接の後に評価者からフィードバックをもらうという流れであった。
 患者教育ブースでは禁煙に関する行動変容が課題であった。きっかけがあり熟考期から準備期に移行し始めた患者で、重要度は高いが自信度が低いためそこをどのように持ち上げていくかがポイントであった。終了後は行動変容理論等についての解説をしていただいた。
 心理社会ブースは外来でのがん告知であった。ここはSPさん(Simulated Patient 模擬患者)が患者役をしてくださり、かなり現実に近い面接の試験になった。SPIKES/SHAREなどに基づいた面接を意識すればよかったが、それ以上にSPさんから「患者」としての感情のフィードバックがあり、非常に生々しかった。告知後にこちらが「お辛いですか?」と患者さんの感情を聞いてしまう場面があり、「辛いのは間違いないが、自由に感情を表現させてほしかった」と話され、この一言から医師への信頼感が崩れたとのフィードバックを受けた。わずかな言い回しであり、医師役もほとんど意識していなかった表現であったので改めて自分たちの面接について振り返る機会となった。
 高齢者ブースではこれから訪問診療を導入する患者さんの初回面接、特にCGAを意識して聴取するという課題であった。基本的なCGA項目をスムーズに聴取して情報をまとめられるか、そしてその先にある患者さんの思いをどの程度短時間の中でくみ取れるかがテーマだった。店頭での骨折治療後でADL低下したため訪問診療となった患者さんの設定であったが、本当は歩いて自由にしたいが家族に迷惑をかけるかもしれないという思いがあるという細かいところまで設定されていた。
 いずれも普段の診療で非常によくあるケースであり、そこに対するフィードバックも非常に適切であった。やはり普段から基本的な診療スキルをきちんと意識しておくことが大切であると感じさせるワークショップであった。専門医試験でも模擬外来は実施されており、専攻医の先生方は一度は受講してもよいかもしれません。

冬期セミナー 12年を経て 朝倉健太郎 大福診療所


 2017年2月。悪天候に見舞われる地域も少なくないこの季節、今年も「若手医師のための家庭医療学冬期セミナー」が開催された。東京大学医学教育研究棟は、すっかりお馴染みの会場である。今年は、なんと12回目になるという。
 2006年の同じ日、記念すべき第1回冬期セミナーが東京で開催された。まだまだ学ぶチャンスの少なかった家庭医/総合診療の領域において、冬期セミナーは若手にとって絶好の学びのチャンスであり、ネットワークをつなぐ場であり、モチベーションを充電する場であった。私自身も当時、大きな期待を持って参加したことを、昨日のことのように覚えている。参加者は50名、開会講演と5つのワークショップ、そして閉会講演という流れであった。因みに、5つのワークショップは「家庭医のネットワーク」「家族志向のケア〜家族カンファレンスを通じて〜」「患者中心の医療」「clinical jazz〜臨床での振り返り〜」「家庭医らしい外来診療とは」であった。
 それから11年、冬期セミナーは大きく飛躍し、参加者は300名、ワークショップは28に及び、4つのプレセミナーと全体講演からなる一大イベントに成長した。企画を終えて間もなく、実行委員長松田真和先生からは「近くに仲間がいない専攻医やセミナーに参加できない医師も含めて、日本中の若手医師が一丸となって前進する一助になってほしいという想いで、セミナーを準備しました。当日はセミナー会場でもSNS上でも多くの方々に交流や学びを深めていただけたようで大変嬉しく、次のステージは確実に近づいていると感じました」とのコメントをいただいた。
 今回のワークショップで扱われた内容すべてを記述することはできないが、大きな枠組みを列挙すると以下のようになる。日常診療(身体所見、認知行動療法、行動変容、整形外科領域、乳幼児健診、アレルギー、ワクチン、精神科領域、緩和ケア、リハビリテーション、皮膚科領域、MUS、メンズヘルス、摂食嚥下)、地域包括ケア、ポートフォリオ、アルコール関連問題、複雑困難事例、健康の社会的決定因子、エンドオブライフケア、家族指向型ケア、ライフサイクル、IPE、EBM、自然災害、教育、経営・マネジメント、キャリア、コミュニティ促進、病院総合医、国際交流などなど。
 全体講演は、高浜町国保和田診療所の井階友貴先生を中心に、野瀬高浜町長、越林保健師、地域医療サポーターの会副代表横田氏はじめ10数名の地域包括ケアの実践者たちが集い、高浜町の取り組みを熱く語った。「関心のある人たちには届くが、そうでない人たちにはなかなか届かず、健康格差はますます開く…暮らしの中で自然に健康的な活動に関われる仕掛け作りが重要」という視点には、地域とともに歩んだノウハウが隠されていると感じた。会場に映し出されたスクリーンには、Facebookを用いた双方向性の議論が展開され、この時代ならではの知的活動と感じた。地域の実情は地域ごとに様々であり、他の成功事例をそのまま移行することが有用でないことは異口同音に語られているが、「地域には必ずファシリテータ役になる人たちがいて、そういう人たちと出会うためには常に発信しつづけなければならない」というコメントには、なるほどそうだと背中を押される感じがした。
 冬期セミナーには独特の雰囲気がある。若手から中堅へと羽ばたこうとする医師たちの、現場で日々向き合う悩みが根源になっている故かもしれない。新たな智や気づき、ここに集う人たちとの出会いが、それを別の形にかえようとしていることそのものが理由なのかもしれない。知ってか知らずか、今も昔もそれぞれが互いの触媒になっていることを、これまでとはまた違った角度からみたような気がする。


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